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聖学院大学提供│携帯小説「虹色プリズム」 2008/11

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虹色プリズム☆第37・38話

[第二章「銀幕の裏側で」] 投稿日時:2008/11/24(月) 08:00

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◆虹色プリズム
├第二章 銀幕の裏側で
└第37・38話   
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愛想が良いとは言えないウェイトレスは、水とおしぼりを机の端にまとめて置くと、注文を取ってすぐにカウンターに戻っていった。

ウェイトレスが戻ってすぐ、月森が紙バッグからペンケースとシナリオを3部取り出し、1部ずつ、俺と深雪先輩に渡してくれた。

 

「深雪さん。さっきFAXしたシナリオの感想をまず教えてください」

 

ペンケースから取り出したシャープの芯をカチカチと出しながら、初めに喋り出したのは月森だった。
深雪先輩は満足そうに微笑んでいる。

 

「そうね。よくできていると思うわ。私が顔を出した、夏休み中のミーティングの時より格段にいいわ。これで完成、でいいんじゃない?」

俺はその言葉にほっとした。

「ところで、肝心のロケの場所は決まっているの?」

 

少し鋭い声で、深雪先輩が続けた。

 


そう、そこが問題なのだ。

「ロケ地はまだ決まっていないんです。学校内の場面は、春川さんのクラスが協力してくれるそうですし、学校の許可も取ってあります。ただ、ロケ地が・・・」

月森は少し沈んだ声で答えた。

「虹ノ橋なんていいんじゃない?」

深雪先輩の提案に、俺ははっとした。そうだ。そう、俺もそう思っていたんだ!

「その案も出たんですが、黒木君たちが嫌だっていうんです」

 

 

そう、確かに黒木は断固として賛成しなかった。でも、あの橋ほどピッタリな・・・

「ちょっと、七尾君も何か発言しなさいよ」

ひかりが俺をぎろりと睨んだ。

「深雪さん、実は俺も、虹ノ橋が最適だと思ったんです。これから2学期も始まるし、学校帰りにも少しずつ撮れる場所がいいと思うんです。時間もあまり無いですから」

 

 


深雪先輩は満足げに微笑んでくれた。


話は弾み、シナリオの細部まで、とても有意義な意見交換が出来た。
月森に貸してもらったシャープペンシルでシナリオに書き込みをしながら、俺はより具体的に、完成した映画のイメージを浮かべることができた。

 

 

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虹色プリズム第37・38話イラスト

「七尾君と、デートの約束取り付けちゃった☆」
名乗りもせず、深雪先輩は茶目っ気たっぷりにそんなことを言った。
・・・さっきの酔っている口調は芝居だったらしい。

 


「・・・良かったですね」

 


私が呆れて返事をすると、先輩は残念そうに「も~ノリが悪いわねぇ」と呟く。

 

「何度かミーティングを覗いて思ったんだけど、七尾君、しっかりしているときは頭の回転がいいけど、

ぼんやりしているときは何にも聞いちゃいないのよね~。

うちに来るように言ったけど、もしぼんやりしていたら、映研の話をしても無意味かしらね」

 


後半に、何やらすごく含みを持たせて先輩は言った。
そして、「うちに来るように」というところをかなり強調している。
・・・確かに七尾が、時々心ここにあらず状態になるのは本当だった。

 


「・・・でも、一応七尾君にも話をしていただきたいんです。私ばかり、深雪さんに相談してもらっているから、今2年生の七尾君にも映画の知識がもっと必要ですし・・・多分来年の部長は七尾君ですし。私からばかり言っていても、何ていうか慣れてしまってイマイチ真面目に聞いてくれないって言うか・・・」


ああ、もう!自分でも何を言っているのかわからなくなってきた。

 

「わかってるわよ。だからデートの約束したんだから。ただ、私が一生懸命喋っても無駄になるかも、って言ってるのよ。そこでね、ひかりちゃんに助けて欲しいのよ。七尾君がぼんやりしているときも、ひかりちゃんの一喝で元に戻るじゃない?それがないと、私喋り損になっちゃう」

 

別に今日の七尾君がぼんやりモードだと決まった訳じゃないし・・・。
「・・・取っちゃうよ?」

 


何をだ。何をっ!
急に声色を変えて、囁くように言った先輩の言いたいことは、そりゃもちろん分かっている。けど・・・

 

 

「だからぁ、七尾君を一喝しに来て、って言ってるだけよ。じゃあ、ひかりちゃんもうちに来てね」
返事を待たずに電話を切られてしまった。私は耳から離した携帯を力なく見つめた。

 

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12月6日(土)

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虹色プリズム☆第35・36話

[第二章「銀幕の裏側で」] 投稿日時:2008/11/17(月) 08:00

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◆虹色プリズム
├第二章 銀幕の裏側で
└第35・36話   
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駅行きのバスに乗ってしばらくして、再び携帯が鳴った。

 

マナーモードにしていなかったことを反省しつつ携帯のフリップを開くと、また知らない・・・いや、

深雪の電話番号が表示されていた。

 

 


「・・・もしもし」


控えめな声量で、俺は受話ボタンを押し、電話に出た。


「あ、七尾君?ごめんごめん。電車使うと遠回りになって、時間、メチャクチャかかるでしょ?これから迎えに行くわ。どこに行けばいい?」

 


・・・あ、そうか。深雪先輩は車があったんだ。

 


「いいんですか?今バスに乗っちゃったんで、旭出駅に来ていただけると嬉しいのですが・・・」
旭出駅に20分後に待ち合わせ、という約束をして、俺は電話を切った。

まだこの時は、20分後のことなんて想像もつかなかった。10分足らずで駅に着くから、駅前のコンビニで時間を潰そうかな、ぐらいなものだった。

虹色プリズム第35・36話イラスト

 

 

 

5分前から待ち合わせ場所にいたのだが、すぐに赤とピンクの中間みたいな色の車が俺の前で止まった。運転席には深雪先輩の笑顔がある。

 


「ごめんね~。待った?」

 


助手席の窓が開き、深雪先輩がいつもの口調でそう言った。

 


「いえ、俺も今着いたところです」


バスからでなく、コンビニからだけど。


「乗って乗って。あ、助手席にお願いね」


「じゃあ、失礼します」


助手席のドアを開き、乗り込もうとして、俺はその時初めて、後部座席の人物に気がついた。

 

 

 

「・・・月森ッ先輩・・・っ!?」

 

むすっとした表情で座っているのは、ひかりだった。


「いちゃ悪い?」     何だか怒っているようだ。


「いえ、そんな訳じゃありませんが・・・。いると思わなかったので」


よく見ると分かるのだが、何やら大きな紙バッグを膝の上に置き、

抱きかかえるように少し前のめりになっているので、さっき車外からは人間に見えなかったようだ。

 

 

そんな分析はどうでもよく、とにかく少し混乱していた。

 


「七尾くんだけで深雪先輩の話を聞いても、半分も覚えられないだろうから来てあげたのよ。時間が勿体無いから早く乗りなさいよ」

 


それって、深雪先輩に対して失礼なんじゃないかと思いながら、俺は助手席に乗り込んだ。

 

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まだ頭の中は混乱していた。

車が走り出してすぐ、深雪先輩は「ところで七尾君、今シナリオ持ってる?」と唐突に聞いてきた。

 

 


「シナリオですか?メモリースティックに入れたものなら持っています」

俺は慌てて答えた。映研関連だと言うことでとりあえず持っては来たが、印刷する時間までは無かったのだ。

「そっかぁ・・・」


深雪先輩が残念そうに言う。

 

 


「深雪さん。私持っていますよ。ホチキス留めしていませんけど、4部あります」
4部も・・・。一体なぜ持っているんだろう・・・?


「本当!?ラッキー♪じゃあ、うちまで行かなくても、その辺の喫茶店で大丈夫ね。いいかしら?」
今度は俺の方が、少し残念ではあった。けれども、まさかそんなことを主張できるはずもない。

「もちろんです」
俺が答えると、月森も「いいですよ」と答えた。

 

 


車がヨネダコーヒーの駐車場に入る。月森は大きくて重そうな紙バックを持って車から降りた。
あの紙バッグにシナリオ4部が入っていることは間違いないが、それだけであんなに膨れるだろうか。
少し気にしつつ店内へ入った。

 


ナチュラルテイストで統一された店内は程よく明るい。
ヨネダコーヒーの多くは、この店舗のようにテーブルが広めで、その為か、勉強している学生を時々見かける。
コーヒーと軽食、そしてノートや参考書を広げても余裕がある。

 


席に座って、一応メニューを広げてはみたが、注文は決まっていた。そして深雪先輩と月森も、同じだったらしい。

 

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12月6日(土)

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虹色プリズム☆第33・34話

[第二章「銀幕の裏側で」] 投稿日時:2008/11/10(月) 08:00

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◆虹色プリズム
├第二章 銀幕の裏側で
└第33・34話   
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それにしても、本当によく似てたなあ・・・

すみれちゃんによく似た女の子の顔を思い浮かべる。
蒼也やすみれちゃんに教えてやりたいが、ミーティングの機会はもうない。


わざわざ電話するほどのことじゃないし・・・。
口で説明したところで、実物を見ないと伝わらないだろう。

 そんなことを思っていると、携帯が鳴った。

虹色プリズム第33・34話イラスト


深雪先輩だ。

 

「ひかりちゃん?七尾くんの電話番号教えてくれないかな?」
「え?いいですけど・・・」

 


「夏休みは終わっちゃったけど、一度ゆっくりお話したいのよね。

 


・・・ところで、ひかりちゃんは七尾くんとはどうなの?」

 


「どう、って・・・?」
「おっと、先輩と後輩、ってのはナシよ。お互い憎からず思ってるんなら、卒業に向けて勉強だけしてる場合じゃないんじゃないの~?」


 ・・・ちょっと、先輩テンションが高くない?


「・・・恋愛映画じゃないんですから(^^;考えすぎですよ先輩」
「そおお?うかうかしてると他の子にとられちゃうわよ。七尾くんあれでけっこうモテそうじゃないの」

 

どこが、と鼻で笑おうとした私に先輩は言った。

 

「年上のお姉さまにも☆ モテるわよ」
 なんか・・・

「・・・先輩、酔ってますか?」
「あら~?じぇんじぇんよってません~♪ねえ、あたしと七尾くんが二人で会うの気になるなら、一緒に来てもいいのよ?」
「気になりません」
 

 

今日の先輩はおかしい。
強くなりそうな口調を抑えて、話を切り上げ電話を切った。


 ・・・先輩、何たくらんでるんだろ?

 


胸がざわめいている。
もう夏休みも終わりだというのに。
勉強も頭に入りそうになく、参考書を閉じた。

 

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RRRRRR・・・RRRRRR・・・RRRRRR・・

 

 

「着信音 3」の無機質な呼び出し音が廊下に響く。蒼也の部屋からだ。

従姉妹の桃花の息子、「あきら」と遊んでやっていた蒼也は、その赤ん坊を すみれ にあずけて台所を後にした。

 

 

携帯電話の液晶画面に、見覚えの無い 11 桁の電話番号。

 

 

「はい・・?」

「七尾君?」

一瞬、誰だか分からなかったが、ほどなく声の主が逢坂深雪であることを理解した。

 

 

「ああ、逢坂先輩、どうもお久しぶりです」

「堅苦しいわよ、七尾君。"先輩"はいいわ」

「えっ、そうですか?」

「そうね。"深雪さん"でお願い。ところで今、時間あるかしら?よかったら私の家にお茶でもしに来ない?有給とったのは良いんだけど暇しちゃって。映研絡みのことで色々と話しておきたいこともあるんだけれど」

 

壁時計を見る。4 時前・・か。確か逢坂深雪の家は南大川だ。片道およそ 1 時間。帰りは夜になるな・・

 

 

「いいですよ。俺、ヒマですし。ええ。はい。・・はい。そうですか、分かりました・・あっ、はい。・・はい。それじゃあ」

いくつか受け答えしながら、我ながらそっけない会話だと思いつつ、通話を切った。

「お兄ちゃん、出かけるの?」

 

 

あきらを抱っこした すみれ がトントンと階段を上ってきながら訊いた。たった今、俺が一人暮らしの女性の部屋へお呼ばれした事を、ずばり察知しているかのような顔。「女の勘」ってやつか・・

 

「うん、ちょっとサークルのアレで・・帰りはたぶん遅くなるよ。夕飯に間に合いそうもなかったら電話する。そん時は桃ちゃんによろしく言っといて」

「うん、分かった」

心なしか、すみれ の顔がニヤニヤしているように見えた。

「あきら、じゃあな。また遊びに来いよ」

あきらの赤いほっぺたを軽くつねった。

 

玄関を出て、歩き出す。

道を曲がり、家が見えなくなると小走りになった。

空を向いてバス亭まで走った。

 

昂っていた。

 

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虹色プリズム☆第31・32話

[第二章「銀幕の裏側で」] 投稿日時:2008/11/03(月) 00:00

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◆虹色プリズム
├第二章 銀幕の裏側で
└第31・32話   
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「すみれ、そっちにいっちゃだめ。」

 


自分の叫ぶ声で目がさめた。

たしかに「すみれ」と叫んだ。あの少女はやはりすみれだったのだ。

 


それにしてもこのところ毎日同じ夢を見ている。もう逃れられないぞと誰かにいわれているようだ。
頭が痛くなるのは何かから逃げようという防衛反応だということはうすうす気がついていた。
何か堪えがたいことがあると記憶をなくすことがあるらしい。

記憶は嘘をつくということも聞いたことがある。
俺の中にある不吉な想像が頭をもたげた。
水車小屋の見える川に妹のすみれが流されて消えた。

 

 

虹色プリズム第31・32話イラスト


でも、現にすみれは元気だし、夢の中で消えた少女がすみれとは考えられないとすぐに不吉な想像をかき消した。

 


実は僕とすみれには父がいない。
僕がまだ小さいころに貿易の仕事で外国に行き、そこで交通事故に遭い、死んだそうだ。
僕の記憶の中の父も外国の街角にスーツ姿で立っていて、こちらをやさしくみつめている。

 

 


僕が中学に入ってすぐ父親のことを作文に書くという宿題が出たことがあった。
それはちょうど年齢的にも母にものたりなさを感じ、

反抗的な態度をとったりしはじめた時期で、父という存在を意識しはじめていた頃でもあった。

 

 

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「母の何か父の話題を遠ざけるような態度は僕が中学生になり、

父の存在を強く意識するようになってからますますひどくなっていた。

そのことは漠然と気がついていたが母が動揺する姿を見るとそれ以上、

話題にしてはいけない雰囲気を子どもながらに勘づいていた。

 

 

それはすみれも同様で兄弟の間でも父の話をすることはなかった。

だからその時の宿題も結局今まで聞かされていた話を適当に書いた。

 

 

父がなくなり、なぜか母は旧姓の七尾に戻った。僕らも七尾姓だ。

父方の姓は佐藤でもし父が生きていれば佐藤蒼也だったわけだ。

そこらへんの事情は子どもの僕にはよくわからないのだが、

父の祖父も祖母も元気で誕生日や入学の時にはプレゼントが送られてくる。

 


しかし、少なくても物心がついてからは一度も父のふるさとである長野県の安曇野に行ったことがない。

祖父母と会うのはいつもこちらでだし、そのたびに今度遊びにおいでといってくれはするが、

母が避けているのか未だにいったことはないのだ。

 

 


もちろん誰にも話してはいないことだが、

いつの頃からか父の生い立ちを調べてみたいと思うようになっていた。

まだ祖父母が元気なうちに安曇野にもいってみなければと思っている。

おっといけない、学校に行く時間だ。すみれが下で呼んでいる。

 

 

「おにいちゃん。学校遅れるよ。」

 

 

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