聖学院大学提供│携帯小説「虹色プリズム」 2009/2
虹色プリズム☆第59・60話
[第二章「銀幕の裏側で」] 投稿日時:2009/02/23(月) 12:25
◆虹色プリズム
├第二章 銀幕の裏側で
└第59・60話
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★☆
「ところがある日、会社にドキュメンタリー映画のことが発覚し、突如、単身赴任を命じられ、ブラジルへ飛ばされることになった。その時ゆりさんは妊娠していたが、信也君には知らせなかったようだ。
ゆりさんは一人で生むことを決心し、その代わり信也君と家族を苦しめることになるので二度と信也君には会わないと心に決めた。
だから、さくらさんが生まれたことも信也君は知らなかった。ゆりさんは隣町に引越し、信也君には知らせなかった。
もちろん私は知っていたが、口止めされたので信也君にはわからないと告げていた。一方、わたしはさくらさんのおじいちゃんの役を引き受け、生活に追われるゆりさんを支えた。
当時の部員たちもゆりさんのことはずいぶん心配し、いろいろと助けてくれた。さくらさんが3歳になった頃、おそらく部員の一人が知らせたのだろう、信也君はゆりさんに自分との子どもがいることをはじめて知った。
私にどうしてもゆりさんとさくらさんに会いたいといってきたが、ゆりさんは承知しなかった。
それでも自分の子どもであるならひと目会って抱いてやりたいという信也君の思いに応える形で、さくらさんだけを私が連れていき会わせることになった。
場所は、この川のほとりに立つ古民家を改造した料亭が選ばれた。昔の農家を再現した作りになっており、川につながったところには水車小屋が再現されていた。
信也君は奥さんにも話していたのだろう、蒼也くんとすみれちゃんを連れてきていた。兄弟として引き合わせたいと思っていたのだろう。
まだ幼かったさくらちゃんはすみれちゃんとすぐに仲良くなり、外で遊び始めた。私は信也君にその後のいきさつを話することに中に二人で入った。
蒼也くんはあまりに似たふたりを目にして混乱しているようだった。事故はそこで起こった。蒼也君と二人の妹はかくれんぼのようなことをして遊んでいたが、さくらさんが足をすべらせて川に転落したのである。子どもの泣き声がするのを聞いて騒ぎになったが、幸い少し流されただけで大学生に助けられた。
急いで救急車で運ばれ、しばらく入院したあと家に帰った。それから二度と会うことをゆりさんは許さなかった。
実は信也君は会社にドキュメンタリー映画の話が発覚後も、あきらめず仕事の合間に取材を続けていた。ビデオテープが何回か私の元に届けられたりしていたが、2度目の単身赴任が決まった。今度はインドネシアだった。
信也君は取材が進むと喜んで赴任したが、ある日交通事故で亡くなったと知らせを受けた。
不可解な死であったが、結局、交通事故と処理されたようだ。葬儀には蒼也くんたちのお母さんに許されてゆりさんとさくらさんも参列していたんだよ。」
ここまで一気に話した木戸は少し疲れた表情をみせた。
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「大丈夫、おじいちゃん」
さくらが木戸にやさしく声をかけた。
蒼也はあまり母が話したがらない部分の父の話が聞けたことに満足していた。みんなもあまりにドラマチックな話に圧倒されていた。
蒼也が言った。
「部員のみなさん、そして出演者のみなさん、今日で撮影は無事に終わりました。最後の最後になって急に登場人物を増やして申し訳ありませんでした。でもそれにより、ストーリーに厚みと意外性が加わりました。
俺の夢の中にいつも出てきてなぞの言葉を残して消えていった少女のなぞも木戸先生のおかげで解けました。本当にありがとうございました。
あとは深雪先輩の力を少し借りて、編集の作業に入ります。きっとすばらしい作品に仕上がるとおもいます。期待していてください。」
いつの間にか、ひかりは、すっかり映研の部長の顔になっている蒼也の横顔を誇らしげに見つめていた。
雷鳴と共に、スクリーンに洋館が映し出された。
軋む階段。ろうそくの炎・・・
映像は一転して、川の流れへ。
人形が流されていく・・・
夕焼けの中手をとりあう二人の少女。
さらに場面は変わり、まぶしい光の向こうに立つ、顔の見えない女性・・・
「待ってるからね・・・」
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虹色プリズム☆第57・58話
[第二章「銀幕の裏側で」] 投稿日時:2009/02/16(月) 08:00
◆虹色プリズム
├第二章 銀幕の裏側で
└第57・58話
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★☆
天然の萌が驚きの声をあげた。すみれも少し動揺していた。
さくらと兄弟であることは知っていたが、映画との関わりについてはあまり知らなかったのである。父のことを3枚の写真でしか知らないさくらはむしろ先が知りたかった。大げさにゆっくり話す木戸の話振りに少しいらいらしていた。
「おじいちゃん、先を早く話して」
「さくらちゃん、すみれちゃん君たちにとって少しショッキングなこともあるかもしれないけど、話すよ、いいかな。実は二人のお母さんには今日話すことを言ってある。お二人とも私にまかせるということだったので、話すことにしたんだ。」
「私ももう中学2年生です。どんな話でも大丈夫です。それよりも真実を知りたいのです。同じ父を持つ3月10日生まれのすみれと4月1日生まれのさくらさんがいるのか。」
すみれが口を開いた。
「みんなに聞いてもらってもかまわないのかね。」
「かまいません、父を信じていますから」
蒼也が兄弟を代表するように答えた。
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「さくらちゃん、お母さんの名前もあったろう。風見ゆりさんは2年生の部員だった。信也君とゆりさんはとても熱心な部員で優勝作品の脚本を仕上げるのにゆりさんの力が大きかった。話題はいつも映画の話や読んだ小説の話で仲もとても良かった。私は顧問であったが、実は演劇が専門で、映画はよくわからなかったのだが、みんな研究熱心でどんどん自分たちで映画作りのことを学んでいった。
なかでも信也君の映像感覚はすごくて、映像が見えるような脚本を書いていたし、撮影になるとあたかも作る絵が先に見えているように指示することができた。普通の人間では考えつかないアングルからの撮影など何度も私たちを驚かせた。部員たちの結束も強く、顧問であった私がいうのも何だが、みんなで見事な作品を仕上げてコンクールに出品し優勝したのだ。
コンクールが終わって信也くんは大学を芸術学部にするか迷ってなんども私に相談にきたが、結局、両親のことを考えて国立の経済学部に進学した。さくらさんのおかあさんは一年後輩であったが、やはり映画とは関係のない短大の英文科に進学した。
私も映研の優勝の翌年に丸岡南高校に転勤となり、そこでは演劇部の顧問に戻り、丸岡南高校を最後に定年を迎えた、定年後は自分の劇団を作り、そちらで20年活動してきた。
卒業生たちとはしばらく年賀状をやりとりするだけであったが、私が劇団をやりはじめてからは公演を見に来てくれるようになり、部員が自然と集まるようになった。
信也君は卒業後、やがて商社に就職し、結婚。蒼也君が生まれた。ゆりさんは、短大を卒業して信用金庫に就職。もともと演じることも好きだったので私の劇団に入った。
信也君は商社に入り忙しく世界中を飛び回っていたので顔を出すこともなかったが、日本経済がバブルに浮かれているときに商社のやり方に疑問を持ち、悩みぬいて私のところに相談にきた。何回か話すうちに、昔の映画のことを思い出したのか、
商社をやめて森林伐採のひどいやり方を告発するドキュメンタリー映画を作りたいといってきた。かなり悩んでいる様子だったが映画の話になると別人のように輝いていた。
その時に熱心に話を聞いていたのがゆりさんだった。映画にする話はとんとん拍子に進み、信也君も元気を取り戻していった.....。
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虹色プリズム☆第55・56話
[第二章「銀幕の裏側で」] 投稿日時:2009/02/09(月) 08:00
◆虹色プリズム
├第二章 銀幕の裏側で
└第55・56話
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━★☆
私とすみれちゃんは、まるで鏡を見ているかのようにそっくりだった。
当時はその理由も考えず、ただ面白がった。すみれちゃんとはたくさん話した。
気も合い、楽しく話し続ける私たちを見守るように、傍らにはいつもパパがいた。
それからしばらく、私たちはよく会っていた。
不思議だったのは、すみれちゃんもパパのことを「パパ」と呼んでいたこと。
しばらくして、私がいつものように川原に行くと、そこに見たことのない男の子がいた。
パパは私に「ちょっと待っていなさい」と言って、ひとりですみれちゃんと、その男の子に近づいて行った。
そして・・・
記憶はないけれど、しばらく後、私は川に流されていた。流されながら、川原で何かを話し込んでいたパパやすみれちゃんの顔が見えたことは覚えている。パパが驚いて、私を助けようと川に入って・・・でも、実際に私を救ってくれたのは大学生の男の人だった。

その翌日から、パパはうちに来なくなった。
小学生の時の記憶は割とあやふやなのに、もっと幼い、その時の記憶だけは妙にはっきりと覚えていた。
今ならわかる。きっと、私のパパとすみれちゃんのお父さんは同一人物だったのだ。
つまり私とすみれちゃんは・・・。
「すみれちゃん。おじいちゃんは、私の本当のおじいちゃんじゃないんです」
混乱しながらも、とりあえず「おじいちゃん」が誰なのかから話そうと思った。
私が「おじいちゃん」と呼んでいるのは、パパの恩師だった人。パパが高校時代、映画のコンクールで入選したときに、顧問をしてくれていた先生。
パパのこと、どう話せばいいのだろう?
+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・
高校の正面玄関から入るとガラスの陳列棚がありその中に古ぼけた小さなトロフィーがある。それが25年前に高校映画コンクールで映研がグランプリを取った時のものであることを知る者はもういない。映画研究会の部員ですら知らない。異動が激しい公立高校ならば当然のことだ。実はそのトロフィーには蒼也の父・佐藤信也の名が脚本・監督としてまたその時の部員の名前と顧問として木戸の名前が刻まれていた。
これは木戸自身がトロフィー受賞後に記念として全員の名前を自腹を切って彫らせたものであった。
木戸はこのトロフィーを今の校長に許可を取り持ってきていた。
それをまず部長である蒼也に渡した。そこに父の名があること確認して、ひかりに回した。蒼也にとって父が優勝したときの監督であった事実ははじめて確認することであったが、もはやあまり驚かなかった。映画作りを通して父の存在を近くに感じていたのである。幻の天才監督と当時騒がれた人物が父であったことはあの夏の合宿の時に木戸の様子からうすうす気がついていた。
さくらにトロフィーが回った時、さくらは「あっ」と小さな声をあげた。母の名前を見つけたのだ。さくらは母から一言も映研にいた話を聞いたことがなかったからである。
トロフィーが一通りみんなに回ったのを確認して、木戸が遠くを見つめながら少し声のトーンを落として話しはじめた。あまりに芝居がかっているので少し滑稽であったが、この人から知らない真実が語られると思うと笑う者はいなかった。
「私が顧問であったことをみんな確認してくれたね。そして佐藤信也君が脚本と監督であったことも。そう、佐藤信也君こそ、当時、天才映像作家出現と騒がれた人物であり、七尾蒼也君とすみれさん、さくらさんのお父さんでもあった人なのだ。今日その話をしようと思って学校からトロフィーを借りてきた。」
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虹色プリズム☆第53・54話
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└第53・54話
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撮影最終日。
私は集合時間より30分早く川原へ向かっていた。
二人だけで話がしたかった。
思ったとおり、すでに彼女の姿があった。
草の上に座っていた彼女の隣に、黙って座った。
微笑んだ彼女は言う。
「もう10年くらいたつんでしょうか?」
「・・・そうね、私たちが出会ってから」
初対面を装ってしまったけど・・・
私たちは子供のころ、すでに出会っていた。
初めて会ったときは無邪気に嬉しかったし、私たちは気が合った。
彼女が川に落ちたあの日までは・・・。
話したいことはたくさんあったはずなのに、言葉が出てこない。
・・・お父さんは、どんな思いで彼女を見ていたんだろう。
思いつめたように口を開いたのは、彼女のほうだった。
「私・・・いなかったほうが良かったんでしょうか」
唐突だったけれど・・・
「そんな・・・」
それは、私のほうが思っていたことなのだ。
ずっと・・・
「そんなことないわ」
毅然とした声に驚いて顔を上げると。
ひかりさんが立っていた・・・
見たことがないおじいさんと一緒に。
+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・+・
「おじいちゃん・・・」
おそらくその老人のことを呼んだのだと思う。
彼女・・・さくらは、びっくりしたようにそう呟いた。
「さくらさんは、木戸先生を知っているのよね」
ひかりさんが優しく微笑んで言う。
「さくらのおじいさんなんですか?」
ひかりさんへそう尋ねるとおじいさんが静かに笑った。
おじいさんは懐かしげに眼を細め、私たちのそばに座る。
「さくら、すみれ。大きくなったなぁ」
本当に懐かしそうに。このおじいさんは、私のことも知っているの?
「さくらさん。全部話してあげて。すみれちゃんは、もう知らなくちゃいけないの」
さくらの様子をうかがうと、
頼りなげな表情はまるでひかりさんの言葉がゆっくりと浸透するかのように徐々に消え、
一種の決意のようなものが見て取れた。
私が知らなくちゃいけないこと?さくらは何を知っているというの?
何から話せばいいのだろう?
母さんはずっと、一人の人を想っていた。
それが、佐藤という人。写真は3枚しかない。まだ赤ちゃんの私を、抱っこしている写真と、少し大きくなった私と川原を歩いている写真。そして、最後の一枚は、玄関の前で4歳の私を抱き上げている写真。
川原の写真は後姿だし、抱っこしている写真はどちらもブレていて顔が不鮮明だ。
でも私は、その人の顔をしっかりと覚えている。
「パパ」と呼んで追いかけた記憶がある。

優しく笑うその表情も、私の手を引く、大きな手も。
籍こそ入っていなかったけれど、私は確かに彼の娘であり、母にとっても、夫だった。
私がちょうど幼稚園に入った頃、パパは私を遠くの町へ連れて行った。
電車に乗ることなんてあまりなかったから、私は遠くだと感じたのだけれど、今思えばたったひと駅。
私はそこで、すみれちゃんに会った。
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